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2024.05.01
給与所得者の特定支出控除とは?サラリーマンでも確定申告すると得になる?
近年、「リスキリング」や「キャリアアップ」が注目されています。必要性は理解しつつも、お金がかかることを心配されて積極的になれないサラリーマンの方々も多いのではないでしょうか。今回ご紹介する「特定支出控除」を利用することで、これらのための支出―たとえば資格取得や大学院の学費など―が、税制上で控除される可能性があります。
以下で、その内容について見ていきましょう。
通常、事業所得(事業を営む人が事業から得る利益)を計算する際には、実際の支出額を必要経費として差し引くことができます。一方で、給与所得を計算する際には、給与収入を得るために費やした実際の経費を差し引くことはできず、必要経費相当額(収入金額に応じた定額控除)を差し引くことになっています。これを「給与所得控除」といいます。
これに対して、「特定支出控除」は、一定の条件を満たした支出額が税制上で控除される制度です。この制度を利用することで、給与所得者でも実際にかかった特定の支出を所得から差し引くことが可能になります。
給与所得者の特定支出控除は、以下の条件を満たす方が利用できます:
(基本的な条件)
● 給与所得者(会社員、公務員など)であること
● 特定支出の合計額が給与所得控除額の2分の1を超えていること
(注意点)
● 個人事業主は対象外となる
● 特定支出について勤務先の証明が必要な場合がある
● 年末調整では適用できず、確定申告が必要となる
特定支出として控除できるのは下記のような費用です。「特定」という名称がついているように、どんな支出でもよいわけではありません。下記の6種類が対象となっており、且つ「業務の遂行に直接必要な支出」でなければなりません:
● 通勤費
● 転居費
● 研修費
● 資格取得費
● 単身赴任者の帰宅旅費
● 勤務必要経費(図書費・衣服費・交際費等で業務遂行上必要となる出費)
○ なお、勤務必要経費については、その支出の額の合計額が65万円を超える場合には、65万円までの支出に限ります。
特定支出控除の計算は以下の手順で行います:
● 給与所得控除額を確認する
○ 給与収入に対応する給与所得控除額を確認します。給与所得控除額は給与収入に応じて決まっています。
● 基準額を計算する
○ 給与所得控除額の2分の1が基準額となります。
● 特定支出の合計額を計算する
○ 上記6つのカテゴリーに該当する支出の合計額を計算します。
● 控除額を決定する
○ 特定支出の合計額が基準額を超えた場合、その超過分が特定支出控除額となります。
実際に給与収入600万円のケースでどのように控除額が計算されるのか見てみましょう:
● 給与所得控除額:164万円(令和6年現在。国税庁の給与所得控除額表より。)
● 基準額:164万円 ÷ 2 = 82万円
● 特定支出合計:100万円
● 特定支出控除額:100万円 – 82万円 = 18万円
控除額18万円は、その分「課税所得」が減ることを意味します。したがって、仮に税率が20%であれば、18万円 × 20% = 36,000円分の税額軽減が期待できます。
特定支出控除の適用を受けるためには、以下の手続きが必要です:
● 確定申告書を提出する
● 特定支出控除を受ける旨・金額を申告書に記載する
● 特定支出控除証明書を申告書に添付する
● 特定支出に係る支出の事実と額を証する書類(領収書等)を申告書に添付又は税務署に提示する
なお、令和5年度税制改正において、給与所得者の特定支出が研修費又は資格取得費に該当する場合において、教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練に係るものであるときは、改正前の手続において必要とされる給与等の支払者による証明に代えて、国家資格であるキャリアコンサルタントによる証明ができることとされました。
この制度は一見してお得に見えますが、実際の利用者は非常に少ないのが現状です。その理由として以下のようなことが考えられます:
● 基準額が高いこと
○ 給与所得控除額の2分の1という基準が高く、多くのサラリーマンにとってはこの基準を超える特定支出を行うことは困難なものと考えられます。
● 手続きが煩雑であること
○ 確定申告が必要であることに加え、各種証明書類の準備や勤務先への確認など、手続きが複雑で時間がかかります。
● 対象費用が限定されていること
○ 対象となる費用が限定的で、日常的な業務関連支出の多くが対象外となっています。
● 認知度が低いこと
○ 制度自体の認知度が低く、勤務先の総務や人事部門でも把握していないケースもあり、結果的に個人が活用しにくいのが現状です。
ここまで読んでくださった方の中には、ハードルがかなり高いと感じた方もいらっしゃるかと思います。上でも述べた通り、この制度の利用者はかなり少ないです。国税庁の統計によると、全給与所得者のうちわずか0.0031%しかこの制度を利用していませんでした(令和元年分の申告ベース)。
やはり、「適用するための金額が高い」「業務の遂行に直接必要な支出でなければならない」ことが、利用者が増えない原因と考えられます。また、他の理由としては、制度そのものを知らない場合もあるかと思います。
「適用するための金額の変更」や「手続きの簡素化」といった、利用するためのハードルが下がることで、働く人が皆、自らの教育や研修に投資することに前向きになることを願っています。
引き続き当ブログをお読みいただく皆様への情報提供に努めていきたいと考えております。