• 2025.07.16

個人事業主の事業承継を成功させるための手続きについて徹底解説!

 

我が国において事業承継は、大きな課題です。

法人の事業承継に関しては、「事業承継税制」の改正や支援措置など、国・地方自治体も様々な対策を講じていますが、個人事業主に関する制度整備や支援はまだ発展途上です。
しかしながら、日本における個人事業主の存在感は依然として大きく、個人事業主の事業承継対策は急務となっています。
今回はそんな個人事業主の事業承継について解説します。

 

なぜ個人事業主の事業承継が重要なのか

 

中小企業庁の資料によると、2024年時点で国内の事業者約350万者のうち、約190万者(約54%)が個人事業主といわれています。
個人事業主は家族従業員やアルバイトも含め、地域雇用の担い手としても機能し、特に地方や郊外での雇用創出に貢献しているだけでなく、ニッチ市場や伝統技術を守る業種も多く、日本文化や地域特産品の保護にも寄与しています。
また、近年では副業・兼業やフリーランス人口の増加もあり、個人事業主の果たす役割はますます大きくなっています。

上記のように社会の重要な担い手である個人事業主ですが、60歳以上が約45%、70歳以上に絞っても約20%を占めており(総務省「就業構造基本調査」より)、引退を見据えた「承継タイミング」が迫っています。

 

しかしながら、約65%の個人事業者が「後継者未定」又は「後継者がいない」と回答(中小企業白書2024)しており、特に地方ではその割合は80%以上に上ります。

これには、子ども世代が年々都会に移住・就職しており、事業に関わる意欲が薄いといった側面もありますが、承継に必要な手続きが複雑な上、税制上、後継者に大きな負担が生じることがあるといった背景もあります。

個人事業の構造的減少が加速すると、2035年までの10年でGDP:数兆円の損失が生じ、数百万人規模の雇用・生活に影響を及ぼす懸念があるともいわれています。

国・地方自治体などにおいても、制度整備を進められておりますが、より迅速な対策が求められます。

 

個人事業主の事業承継の選択肢

 

個人事業主の事業承継方法には以下のような選択肢があります。

 

● 贈与
生前に事業用資産を後継者に無償又は低額で譲渡する方法です。贈与税が発生する可能性があります。事業用資産の贈与に特化した「事業承継贈与税制(個人版)」の創設が検討されています。

● 相続
事業主が亡くなった場合、相続の手続きを経て、後継者が事業用資産を相続する方法です。小規模宅地等の特例や事業用資産の評価                                                  減るなどを活用することで、相続税を軽減できる可能性があります。また、後継者が相続人ではない場合には、遺言書等を活用し、事業に必要な財産を継承することもできます。

● M&A
近年、個人事業でもM&Aによって第三者に事業を譲渡する事例が増えています。特に後継者がいないケースでの、スモールM&Aの仲介プラットフォームの利用が広がっていますが、契約書類の整備や譲渡価格の妥当性を見極めるには、専門家のサポートが不可欠です。

 

個人事業主の事業承継を成功させるための手続きと必要書類

 

事業承継を円滑に進めるためには、事前準備と明確な手続きが不可欠です。
個人事業主が事業承継を行う際の手続きについて、準備すべき書類、現経営者・後継者それぞれが行うべき手続きについて、解説します。

 

必要な書類

 

・事業用資産の目録(設備・商品。車両など)
・登記簿謄本(土地・建物)
・青色申告決算書(直近3~5期分)
・納税証明書、固定資産税の評価明細書
・各種許認可証の写し(飲食店の営業許可など)
・金融機関との借入契約書

 

現経営者が行う手続き

 

・資産の棚卸と評価
・相続・贈与のシナリオに応じた税務相談
・後継者への業務引継ぎマニュアルの作成
・必要に応じてM&A仲介業者との契約

 

後継者が行う手続き

 

・個人事業の開業届(税務署への提出)
・青色申告の承認申請
・各種許認可の名義変更や再取得
・金融機関との関係再構築・借入承継

 

個人事業主が事業承継をする場合に失敗しないためのポイント

 

 

早めの準備と計画を行う

 

まだまだお元気であっても、なるべく早い段階で事業承継の準備を始めることが重要です。
後継者となる方に事業に必要な財産を引き継ぐためには、遺言書や民事信託の活用も有効です。

また、業務内容や必要なノウハウについても時間をかけて、確実に引き継いでいくことも円滑な事業承継を行うためには重要なポイントとなります。

 

節税対策を行う

 

個人事業の承継は、相続税の負担が生じる可能性があり、その結果、後継者の方が事業に充てることができる資金が、目減りしてしまう可能性があります。
そうならないように、税理士などの専門家と相談しながら、生前贈与や保険金の活用などの節税対策を行うことも検討しましょう。

 

まとめ

 

これからの日本経済の成長・発展を考えれば、事業承継問題に対して官民一体となった対策が必要です。
その一つが個人版事業承継税制です。
個人版事業承継税制は、2028年12月までの相続に限って適用可能ですが、法人版に比べて、制度の周知がまだ十分ではないのも事実です。
中小企業庁や自民党税調でも対象の拡充や恒久化を検討すべきとの意見もあり、2025年度の税制改正大綱にて何らかの動きがあることが注目されております。

 

事業の承継を考えている方は、資産の棚卸や、承継候補者の育成など、制度の見直しに先んじて、計画的に準備を始めておくことが重要になります。

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