従業員の資格取得費用等を負担した場合の取り扱い
2022.06.01
福利厚生費となる税務上の要件について
こんにちは、福島会計の並木です。
近頃飲食店や旅行なども賑わいが戻ってきているように思います。
この状況が続けば、近々また忘年会や社員旅行なども企画できるのではないでしょうか。
ところで、会計上は忘年会や社員旅行などの費用を「福利厚生費」として計上するのですが、この福利厚生費について、税務上いろいろな論点のある科目となっております。今回はそちらを説明していこうと思います。
まず、税務では何を福利厚生費と指すのかについてですが、国税庁のHPによると、福利厚生費については下記のように説明されています。
「専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行などのために通常要する費用については交際費等から除かれ、福利厚生費などとされます。」
この文章の中での要点は、
1.専ら従業員の慰安のために
2.通常要する費用について
の2点になります。
要点1.のポイントは、福利厚生費は従業員に関わる費用であることが前提ということです。ですので、取引先などの社外の人が関わっている場合や、役員に対してのみの費用、そもそも従業員がいない会社は福利厚生費は計上できないのでご注意ください。
要点2.については、食事の提供や旅行といった具体的な内容で変わってきますが、前提として、通常要する費用として認められるために必要とされている要件が3つあります。
(1) 機会の平等性
従業員全員が福利厚生を受けられるようになっていることを意味します。
役員のみが福利厚生を受けた場合だけではなく、特定の従業員のみしか受けられていない場合も福利厚生費には該当せず、給与課税されますのでご注意下さい。
(2) 金額の妥当性
「社会通念上妥当な金額」とも言われている考え方になります。
項目の中には、明確な上限金額が設けられていないものがいくつかあります。そのような場合には、会社規模や業績にふさわしい内容になっているか、同業他社と比較して高すぎないかなどといったことを総合的に勘案した金額であることとされています。
社会通念上妥当かどうかについて、過去に裁判になったこともありますので、世間相場を確認して頂き、それに基づいて金額を決定するのが安全です。
(3) 金銭での支払ではないこと
一般に福利厚生といわれているものの多くは、税務上「特殊な給与等」ないし「現物給与」というような給与所得の範囲とされているものになります。特殊な給与等については業務に必要な費用の支出に充てたものであること、現物給与については、業務に必要な費用であることや、換金性がなく評価が困難であることなどの一定の要件を満たしていることを要件に給与課税がなされないことに成っています。ですので、例えば実費ではなく概算で支給をしたり、費用相当額を金銭で支払った場合には、通常の給与所得として源泉所得税が発生しますのでご注意ください。
続いて、具体的な内容に触れていきます。
一般的に、福利厚生といわれている費用には以下が挙げられます。
・通勤手当
・健康診断費用
・慶弔見舞金
・慰安旅行の費用
・忘年会や新年会等の費用
・残業時の食事代
・社宅家賃
・自社商品の値引き販売
・会社で契約する養老保険
・従業員への食事補助
etc.
これらおのおのについて、税務上福利厚生費とするための要件が設けられています。
この要件を満たしていない場合、福利厚生費としては認められず、給与として源泉所得税を課される可能性がありますので十分な注意が必要になります。
例えば、慰安旅行を福利厚生費にする場合、国税庁のHPでは下記のように示されています。
(1) 旅行の期間が4泊5日以内であること。
※海外旅行の場合には、外国での滞在日数が4泊5日以内であること。
(2) 旅行に参加した人数が全体の人数の50パーセント以上であること。
※工場や支店ごとに行う旅行は、それぞれの職場ごとの人数の50パーセント以上が参加することが必要です。
(注1) 上記いずれの要件も満たしている旅行であっても、自己の都合で旅行に参加しなかった人に金銭を支給する場合には、参加者と不参加者の全員にその不参加者に対して支給する金銭の額に相当する額の給与の支給があったものとされます。
(注2) 次のようなものについては、ここにいう従業員レクリエーション旅行には該当しないため、その旅行に係る費用は給与、交際費などとして適切に処理する必要があります。
1 役員だけで行う旅行
2 取引先に対する接待、供応、慰安等のための旅行
3 実質的に私的旅行と認められる旅行
4 金銭との選択が可能な旅行
ちなみに、過去の記事では「従業員への食事補助」についても述べていますので、是非こちらもご覧ください。
過去記事:2021.10.27 所得税の給与所得となるものの範囲
いかがだったでしょうか。
中小企業庁が発表している「小規模企業白書」によれば、約4割の会社が人材不足を感じている様です。
従業員の雇用や安定化の一つとして、福利厚生を充実させることは有効ではありますが、税務上の論点が多く、社内規程が必要なものもあったりと注意が必要な費用ですので、是非事前に福島会計にご相談下さい。