従業員の資格取得費用等を負担した場合の取り扱い
2022.06.01
法定調書を正しく理解していただくために
スタッフの西川です。
毎年行われる税制改正の中で、「納税環境整備」というカテゴリーがあります。
ここ数年の改正事項としては「納付方法の拡充(電子納税、クレジットカード納付、スマホアプリ納付)」や、「大法人の電子申告の義務化」「押印義務の見直し」といったものがあり、幾度となく当ブログでも発信している「電子帳簿保存法(改正)」についても環境整備の一環で行われているものです。
これら広い意味でのデジタル化の流れの中で、環境整備により一向に事業者の事務負担の軽減が図られない制度としてあるのが、今回のテーマである「法定調書」への対応です。
法定調書制度は、課税当局による適正な課税の確保のため、提出義務を課す者に対して一定の事務負担を強いるものとなっています。
本ブログでは、法定調書の簡単な概略と、Q&Aを用いて実務的な理解を少し深めたいと思います。
法定調書は、主なものとして下記の6つが掲げられますが、該当件数の少ないものも含めると全部で60種類もあります。
(1)給与所得の源泉徴収票
(2)退職所得の源泉徴収票
(3)報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書
(4)不動産の使用料等の支払調書
(5)不動産等の譲受けの対価の支払調書
(6)不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書
上記は所得税法の規定により、税務当局が納税者の所得状況を把握するために法人・個人問わず支払者に提出義務を課しているものです。
この他にも、株取引を行っている人に証券会社から交付される「特定口座年間取引報告書」や、一定の資産等がある方が提出しなければいけない「国外財産調書」「財産債務調書」も法定調書の1つでよく知られています。
我々のお客様である事業者の多くがこれらの提出義務者となり、集計から税務署への提出まで依頼を受けることが多いのですが、我々としても法定調書の性質や内容などを説明する機会がなく、事業者に理解してもらえているとは到底言えない現状かと思います。
そこで、以下ではよく受ける実際の質問事例などを元に、法定調書のことを少し解説したいと思います。
その先に、「曖昧だった理解がはっきりした!!」と、「そうなの?今まで誤解していた!!」が訪れることでしょう。
事例①
Q
年の途中で退職した従業員から「(1)源泉徴収票が欲しい」と言われたんだけど、退職時に渡したはずなんだけど・・・
A
源泉徴収票の本人交付は義務ですので原則退職時に発行をしておりますが、再発行であっても要望を受けたら必ず交付する必要があります。
なお、「(3)報酬等の支払調書」を支払先から求められることがありますが、こちらの本人交付義務はありません。
※(4)~(6)の支払調書も同様
事例②
Q
外注先の個人事業主から「(1)源泉徴収票が欲しい」と言われたんだけど・・・
A
正しくは「(3)報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」ですね。
「(1)源泉徴収票」は、その方と雇用契約関係(給与所得)がある場合に交付するものです。
なお、事例①の通り交付義務はありませんが、慣行(サービス)として交付しています。
事例③
Q
会計上の売上金額と、もらった支払調書に記載された金額が異なるんだけど、どうしたらいい?(訂正してもらった方がいい?)
A
支払調書はあくまで参考です。
自身で管理し、一定の基準により計上した売上金額が正しい数字となります。(訂正は必要ありません。)
いかがでしたでしょうか?
税務当局に対しては提出義務があっても、(3)~(6)の各種支払調書は本人への交付義務はありません。
これは、提出義務者の事務負担を踏まえたものですので、今後は法定調書の理解と誤解をスッキリさせて必要に応じてやる必要のないことをやらないように交渉してみてはどうでしょうか。