• 2024.04.23

事業承継税制とは?税理士が要件やメリットをわかりやすく解説!

事業承継税制とは

 

事業承継税制は、円滑化法に基づく認定のもと、会社や個人事業の後継者が取得した一定の資産について贈与税や相続税の納税を猶予し、一定の条件を満たした場合には全額を免除する制度です。
中小企業経営者の高齢化が進むなか、後継者の税負担を軽減することで、中小企業の存続、成長を支援するために設けられました。

 

事業承継税制が設けられた背景

 

後継者がおらず廃業を余儀なくされる中小企業が多いなか、二代目、三代目へ脈々と事業を承継できる企業はそう多くはありません。
しかし、そんな恵まれた企業も自社株式の次世代への承継には苦労しています。
高収益体質で、財務基盤が盤石な会社は当然ながら株式も高い評価となるため、高額の相続税・贈与税が課せられるためです。
中小企業の株式はほとんどの場合、株式市場に上場していないため簡単に売買することができず、換金することが困難です。
また、市場取引が行われないため相場がなく、会社の業績に応じて評価をすることになりますが、業績の良い企業ほど株価が高騰する傾向にあります。
そのような株式であっても、相続税の課税対象に含まれるため、後継者は納税資金を金融機関からの融資で調達したり、自身の財産を処分して準備しなくてはならない等、大きな負担を背負うケースもあり事業承継のネックとなっています。
こうした後継者の負担を軽減する目的で、事業承継税制が設けられました。

 

事業承継税制の仕組み

 

事業承継税制の仕組みは、以下のようになっています。

1.特例承継計画を作成する

2.認定経営革新支援機関で所見を記載し、都道府県知事に提出し確認を受ける(※1)

3.贈与実行又は相続発生(※2)

4.3の申告期限までに、都道府県知事の「円滑化法の認定」を受ける

5.4の認定を受ける旨を記載した贈与税の申告書又は相続税の申告書を申告期限までに税務署に提出するとともに、納税猶予額及び利子税の額に見合う担保を提供する

 

(※1)提出期限が令和8年3月31日まで延長されました。

(※2)令和9年12月31日までに実行した贈与、発生した相続に限られます。

 

申告後も引き続きこの制度の適用を受けた非上場株式等を保有すること等の要件を満たすことで、納税の猶予が継続されます。
なお、納税の猶予を実際に受けるためには、下記の手続きが必要となります。

 

・申告後5年間(承継期間)・・・毎年、都道府県に報告、税務署に継続届出書を提出
・申告後.6年目以降(承継期間経過後)・・・3年に1回、税務署に継続届出書を提出

継続届出書の提出がない場合には、猶予されている贈与税又は相続税の全額と利子税を納付する必要が生じますので、注意が必要です。

上記要件を継続したまま、後継者が死亡した、承継期間経過後に「免除対象贈与」を行った場合などには、晴れて贈与税又は相続税の納税が免除されることになります。

 

事業承継税制の要件

 

事業承継税制は、最終的に相続税・贈与税が免除されることがあるため、厳格な要件が定められています。
中小企業庁のホームページに要件が記載されていますので、ご興味がある方はご確認ください。

 

相続の場合:https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu_zouyo_souzoku/manual_2_2.pdf

贈与の場合:https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu_zouyo_souzoku/manual_2_2.pdf

 

事業承継税制のメリット・デメリット

 

続いて、事業承継税制のメリットデメリットについてそれぞれ解説します。

 

事業承継税制のメリット

 

1.相続税・贈与税の負担軽減
特例事業承継税制の最大のメリットは、相続税・贈与税の負担を実質的にゼロとすることができることです。

 

2.株価対策が不要
事業承継を考える場合、相続税・贈与税の負担を考慮し、自社株式の評価額を抑える株価対策を行うことがあります。しかし、過度な株価対策は自社に負担を掛けるだけでなく、税務申告の際に税務署から否認されるリスクも発生します。特例事業承継税制では、相続税・贈与税の全額猶予措置を受けられますので、そもそも対策を行う必要がなくなります。

 

3.円滑な事業承継
相続の話は、先代経営者の死亡に備えた話なので、後継者の立場からは切り出しづらいところもあります。特例事業承継は適用期間が定められているため、時間的な制限を理由に先代経営者でも事業承継に対して前向き・積極的になると共に、後継者からも話が切り出しやすくなるでしょう。

 

事業承継税制のデメリット

 

1.利子税を支払う可能性
特例事業承継税制は相続税・贈与税の「免除」をゴールに想定していますが、あくまで「猶予」されているに過ぎません。猶予措置が取り消された場合には、猶予されている相続税・贈与税と合わせて利子税が課され、本来納めるべき税額よりも負担が高くなってしまいます。

 

2.制度が複雑
特例事業承継は非常に複雑な制度となっています。継続的な要件の順守、報告義務もあり、いずれかを怠ると猶予が取り消され、1のとおり猶予された税額・利子税の納税義務が発生してしまいます。

 

3.M&Aなどの第三者への株式売却は猶予停止
特例事業承継税制適用後、後継者がM&Aなどにより、第三者に株式を譲渡した場合、納税猶予の停止条件となるため、株式売却後2ヶ月以内に猶予を受けていた相続税・贈与税と1の利子税を納付しなくてはなりません。承継期間5年を越え、一定の経営環境の変化があった場合には、減免措置も設けられていますが、予めM&Aなども検討されている場合には、注意が必要です。

 

 

事業承継税制の手続きについて

 

特例事業承継税制の手続きは非常に複雑です。
また、先代経営者、後継者、承継法人のそれぞれに厳格な要件が定められています。要件については中小企業庁ホームページをご紹介いたしましたが、具体的な手続き、流れについては国税庁ホームページにまとめられておりますので、ご興味がある方はご確認ください。

なお、スタートとなる特例事業承継計画の提出期限は令和6年3月31日となっていますが、税制改正により令和8年3月31日に延長されました。とはいえ、期間が迫っていることには変わりありませんので、少しでも適用を考えている場合、とりあえず特例事業承継計画を提出しておくことも一つの方法です。
また、計画に係る相続・贈与については期限が延長されず、令和9年12月31日までに発生したものに限られますので、ご注意ください。相続の発生については、予測ができないものではありますが、贈与による株式の異動をご検討されている場合には、早めに予定を立てることをお勧めいたします。

 

 

まとめ

 

今回は特例事業承継税制について、ご説明させていただきました。
全額免除を受けるためには、承継後においても厳格な要件が定められているため、完全無欠な制度とは言いにくいところもありますが、現行の制度下においては、親族内や社内での事業承継を行う上で、税負担を抑えることができる有効な手段となっております。
株価が想像よりも高価になっていて、動きがとれないといった状況であれば、適用をご一考いただくことをお勧めいたします。

なお、事業承継には、1.親族内承継、2.親族外承継、3.M&A、の3つの方法がありますが、それぞれメリットデメリットがあり、どの方法で進めるのかについてもご相談を承っておりますので、是非、ご連絡ください。

 

 

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