• 2022.08.10

貸倒損失を計上できる3つの要件と税務上のポイント

 

スタッフの箱田です。
売掛金などの債権について、債務者側の経営状態の悪化などにより、回収ができなくなるケースがあります。
このようなケースにおいて、回収できなくなった債権の金額を損失として計上することを「貸倒損失」といいます。

 

この貸倒損失は、法人税法上は債権者側が恣意的に損失計上をしないよう、厳密にルールが決められています。
税務上の貸倒損失として損金に算入できるのは、以下の1~3のいずれかに当てはまる場合に限られます。

 

1.法律上の貸倒れ(法律等より金銭債権が切り捨てや免除が行われた場合)
2.事実上の貸倒れ(金銭債権の全額が回収不能の場合)
3.形式上の貸倒れ(債務者との取引停止後、一定期間弁済がない場合等)

上記は、それぞれ損金への算入時期や要件、注意点が異なるため、それぞれ検討したうえで、判断を行うことが必要です。
以下でそれぞれ順に紹介します。

 

1.法律上の貸倒れ
以下の事実に基づいて、債権の切り捨てや免除が行われた場合には、その事実が生じた事業年度に、貸倒損失を計上します。

①会社更生法、民事再生法などの規定による更生計画(再生計画)の認可決定、会社法の特別清算に係る協定の認可。
②債権者集会の協議決定および行政機関や金融機関などのあっせんによる協議で、合理的な基準により負債整理を定めているもの。
③債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができない場合に、その債務者に対して行う、書面による債務免除。

 

法律上の貸倒れは、貸倒れの事実が生じた事業年度のみしか、法人税法上の損金として算入することができません。
それ以外の事業年度では、損金に算入することができないため、注意が必要です。

 

また、法律上の貸倒れでは、下記「2.事実上の貸倒れ」や「3.形式上の貸倒れ」と異なり、損金経理(費用処理)されていることが要件ではありません。
そのため、上記①~③の事実があるにも関わらず、損金経理されていない(会計上貸倒損失が計上されていない)場合において、
法人税の申告書で貸倒損失を計上して、調整することも認められています。

 

2.事実上の貸倒れ
債務者の資産状況、支払能力等から債権の全額が回収できないことが明らかになった場合には、
その明らかになった事業年度(担保がある場合にはその処分後)において、貸倒損失として損金経理することができます。

事実上の貸倒れは、債権の「全額」が回収不能であることが要件のため、債権の一部のみが回収不能の場合は、この要件を満たしません。
また、「1.法律上の貸倒れ」と異なり、債権の全額が回収できないことが明らかになった事業年度での、損金経理(費用処理)が要件となっているため、
法人税の申告書での調整を行うことは認められていません。

 

3.形式上の貸倒れ
以下①または②の事実が発生した場合には、その債務者に対する売掛債権(貸付金などは含みません。)について、
その売掛債権の額から備忘価額(1円)を残して、残額を貸倒損失として、損金経理をすることができます。

①継続的な取引を行っていた債務者の資産状況、支払能力等が悪化したため、その債務者との取引(最終取引日、最終入金日及び入金約定日の最も遅い時点)を停止した時から1年以上経過したとき
②同一地域の債務者に対する売掛債権の総額が取立費用より少なく、支払を督促しても弁済がない場合

上記①は継続的な取引先である債務者に対する債権のみが対象となるため、1回限りの不動産売買取引に関する債権は含まれません。
また、形式上の貸倒れは売掛債権のみを対象とするため、貸付金は形式上の貸倒れの対象から除かれます。

 

上記の通り、貸倒損失は要件や損金算入時期を検討したうえで、正しい情報を元に判断を行うことが重要になります。

そのため、長期間にわたり回収が滞っている債権について、税務上の貸倒損失の計上を検討されている場合は、専門家である税理士に相談されることをおすすめいたします。

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